D-SIMS(ダイナミックSIMS)の分析手法、原理について


1. D-SIMSとは?(Static SIMSとの違い、応用分野)

  D-SIMS
(Dynamic SIMS)
Static SIMS
(ToF-SIMS)
1次イオン照射量 多い(>1e13 ions/cm2)
試料破壊される
少ない(<1e13 ions/cm2)
ほとんど破壊されない
イオン種 O、Cs
化学的に活性
Ar,Ga,Au,Bi…
不活性
目的
 



Si表面の原子数=
1E15cm-2
不純物高感度分析
表面化学情報(主として有機物)  



・照射イオン量が増えると原子ミキシング により下層の原子が表面移動する

・材料の結合も乱れてくる

1次イオン照射とイオン注入効果

1次イオンもエネルギーを持つためイオンの注入効果があり

D-SIMS分析時に、イオン照射量を増やすとスパッタリング イオン注入 がバランスします 

それ以前(初期効果)では2次イオン発生が安定しません。

  O2+, 10keV, 垂直入射 Cst+, 10keV, 垂直入射
  O2+, 10keV, 垂直入射によるIONレンジ O2+, Cs2+, 10keV, 垂直入射射によるIONレンジ

D-SIMSの特徴

  • 高感度分析
  •  ppm~ppbオーダの検出感度の分析が可能

  • 元素分析
  •  ppm~ppbオーダの検出感度の分析が可能

  • 深さ方向分析
  •  元素の深さ方向分布測定が可能 (μmオーダからnmオーダの範囲)

  • 面内分析
  •  二次イオン像から面内の元素分布を知ることが可能

  • 同位体分析
  •  ミクロンオーダの領域での同位体比測定可能


    Si中の各元素検出下限 (カメカ社セクターSIMS典型例

      Hも含めた周期律表にあるほとんどの元素は、ppmオーダーの検出下限で分析できる
    (5E16 = 1ppm 5E13 = 1ppb)

    D-SIMSはどのような分野で使われているか

    D-SIMを活用している分野


    2. D-SIMS装置の構成、簡単な構造・原理)

    SIMS装置の構成

    SIMS装置の構成図


    実際のSIMS装置

    カメカSIMS


          各元素の正、負二次イオンの発生し易さの違い

    2次イオングラフ


    イオン源について

    D-SIMSでは、主としてOあるいはCsイオン源を利用します。

     Oイオン源  Csイオン源
  • デュオプラズマトロン(Cameca, Phi)- 最も一般的なイオン源
  • 電子線衝撃(Ion-ToF)- 簡単な構造のイオン源
  • シングルプラズマ(旧Atomika)
  • RF(Cameca WF, NS50L)
    大電流が得られる
  • イオン源
    表面電離型
  • 金属ソース(旧Cameca, Phi, Atomika)
  • 化合物ソース
  • -熱脱離(Cameca)
    -酸化還元(Ion-ToF)




    2つのイオン源を利用することで 全元素を高感度に分析することが可能になります。

    Csイオン源の構造

    Csイオン源の構造


    Oイオン源(Duoplasmatron)の構造

    Oイオン源の構造

    ※カメカ社のSIMSでは、中間電極を左右に移動させることが可能なため 高密度の負イオンを引き出すことができます。


    質量分析計の種類と特徴まとめ

    D-SIMSでは、主としてセクター磁場、あるいは四重極質量分析計を利用します。

     
    四重極 (Q-pole)型 セクター磁場
    (Sector)型
    飛行時間 (TOF)型
    (1次イオン源の他にスパッタイオン源が必要)
    モード Dynamic Dynamic Static(& Dynamic)
    質量分解能 低い(<2000) 高い(>10,000) 高い(>10,000)
    特長
  • 低エネルギー1次イオン
  • 維持イオン入射角が可変
  • 装置が比較的小型
  • 超高真空
  • 高感度
  • 高質量分解能
  • 制限視野分析
  • 絶対感度が高い
  • 全質量ピークの同時検出
  • 重いイオン(m/z >1,000)の分析が可能
  • 問題点
  • 質量分解能が不足
  • 感度不足(特にHigh Mass領域)
  • (半)絶縁分析が苦手
  • 装置が大型、高額
  • 一次イオンビームの電圧低下が困難
  • 装置調整が難しい
  • データの解釈が難しい
  • 深さ方向の分析のスループットが低い
  • 応用
  • 薄膜 MOS Gate Dielectrics
  • MOS(Shallow)Junction/
  • 深さ方向分析(μm以上)
  • イオン注入プロファイル
  • 高分子の分析
  • (有機)汚染の評価
  • (Shallow Depth Profile)

  • セクター磁場型SIMSの質量分析計

    セクタ磁場型SIMSの質量分析計

    *ESA:エネルギーアナライザー(Electronic semi-spherical analyzer)

    マグネットによる二次イオンの質量分離

    ローレンツ力を利用した質量分離

    マグネットによる二次イオンの質量分離

    軌道曲率半径R (IMS 3~7f では117 mm、IMS1270/80では585 mm)

    ■二次イオン( )の運動エネルギーをESAにより単一化

    ■二次イオン““だけが出口スリットを通過するようにマグネットの磁場を設定

    ■““だけが出口スリットを通過して検出器へ


    二重収束質量分析計(Double Focus Mass Analyzer

    二重収束質量分析計

      ■ESAのエネルギーの分散がある
    ■マグネットでは、質量分散あり
    これらは等価である
     


    スペクトロメータレンズによりESAで発散した
    イオンの軌道を内側にかえる

       調整

      マグネット部の回転半径の差により
    出口の一点にフォーカスする
      幅広いエネルギーでイオンの質量分離可能=高感度分析

    四重極(Quadrupole)質量分析計の原理

    四重極(Quadrupole)質量分析計の原理 イメージ図


    3. 応用例

    半導体材料開発におけるSIMSの利用

    半導体  高純度のものは、電気が流れにくい
    特定の不純物を添加することで電気抵抗が変化
     
    半導体材料開発におけるSIMSの利用 イメージ図

    セクターSIMS高質量分解能モードを利用した分析

    Si中のP濃度高感度分析

  • Si中のPは、N型不純物として重要な元素
  • 31P(質量数31)と31SiH(質量数30のSi+1H)との質量が重なり検出下限が悪くなる
    問題がある。=質量干渉効果
  • 高質量分解能モードによる測定が必要

    セクター磁場型SIMSでは、質量分解能をあげることで、僅かな質量の違いを分離して測定することが可能(M/ΔM > 10000 )

    31P: 30.973764 vs 30Si:29.973763+ 1H:1.0078252 = 30.9815882

    質量分解能 M/ΔM = 3957

    ※ : 質量欠損とは、原子核中の陽子のクーロン反発力に逆らい原子核を維持するため質量の一部をそのエネルギーとして失うこと(E=mc2)


    高質量分解能モードを利用したP高感度分析

      Hを大量に含むアモルファスSi中のP分析   Pを含むSiの高分解能質量スペクトル
      Si中のP分析グラフ   高分解能質量スペクトルグラフ

    Cameca IMS-7f による高感度分析例

    高感度分析例


    電子デバイス分野SIMS分析例:GaN系LED

    SIMS分析例:GaN系LED

  • 材料膜中へのH, C, O 混入は、特性に大きく影響する
  • SIMSでは、これらの元素を高感度に検出できる
  • それぞれの元素の検出限界
  •  DLH(at/cm3)  DLC(at/cm3)  DLO(at/cm3)
     4.0E+17  1.0E+17  8.0E+16
    →分析条件によりさらに向上する

    材料科学分野SIMS分析例:ポリシリコン

    SIMS分析例:ポリシリコン


    原子力分野SIMS分析例:環境測定

    原子力分野SIMS分析例


    SIMS分析時に注意する点

  • 1次イオン
       イオン種、エネルギー、入射角度
  • 2次イオン
       極性、イオン種(単原子、クラスター)
  • マトリックス効果
       母材元素により2次イオンの生成効率が変化→定量に影響
  • 大気ガス分析
       残留ガスの影響でBGが高い:測定に工夫が必要
  • 絶縁物分析
       電子線による帯電中和

  • SIMSにおけるMatrix効果とは

    SIMS Matrix効果


    ダイナミックSIMSについてのまとめ

  • SIMSは、高感度な表面分析法であり、各種材料開発・研究に役立つ手法です

  • D-SIMSは、Cs、Oなどの化学活性なイオンのDCビームによるスパッタリングを
    利用するためより高感度かつ短時間での分析が可能です

  • イオン顕微鏡モード、高質量分解能モードなど多彩な機能があり、
    それらうまく利用することで高度な材料評価が可能です

  • しかしながら、マトリックス効果などデータ解釈する上での問題に気をつける
    必要があります
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